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ダメ人間のヒーロー〜『中原昌也 作業日誌 2004→2007』感想

 

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 誰にでも気分が落ち込むような時がある。

 みなそれぞれ気晴らしの方法があると思う。好きな音楽を聞いたり、気持ちの良い公園を散歩したり、酒を浴びるほど飲んだり。

 

 自分の場合は読書だ。特にこの『中原昌也 作業日誌 2004→2007』を読むことだ。

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 中原昌也は、音楽製作家であり、作家であり、映画評論家でもあり、マルチに活躍する文化人なのだが……。

 

 7月8日

 朝から理由もなく、嫌な気分に。

 どうしようもなく生きるのが辛いが、自殺する気などまったくないのがまた辛い。もうどうにもならない。本当に悲惨なのは、無駄に生き続けることだと悟る。

 

 彼の日誌はとにかく暗い。全ページが、自己嫌悪、罵詈雑言、ネガティブワードで溢れている。

  

3月23日

 強烈に全ての仕事がやめたくなる。いまの悩みは、目の前に積み上げられた仕事を片付けてかたバイトを始めるべきか、それとも豪快に全部辞めて直ちにバイトを見つけるべきなのかということである。

 しかし、いまは特に何かを始めようという気が起きない。ただただモヤーッとした不快な感覚が胸の辺りで重くうねっている。

 いまはまだ昼過ぎだが、このような調子では一日中何も出来ないだろう。早く夜が来て、さっさと今日が終わってほしい。

 

  世の中を呪い続けるのと並行して、ひたすら大量の音楽を聞き、映画を観る。

 

4月19日

 昼に起きる。また悪いモードに戻ってきてしまったようだ。何もやる気が起きず、ただただ辛い。

 仕事を片付けるため、昼から爆音でEXTREME NOICE TERRORを聴き、次にルー・リード『METAL MACHINE MUSIC』、それからCRASSを聴き、POISON GIRLS『HEX』(名盤!CD入手できず)聴いて、またCRASS(さっきは1stで今度は2nd)に戻る。しばらくして、スログリREMIX盤の「Hot on the heels of love」のカール・クレイグEDITを何度も聴く。十代半ば頃から変わらず死ぬほど愛している名曲であるが、長くなった分だけまた素晴らしい。ここで聞こえる音の全てが官能的で可愛らしくて…特にシンセとヴァイヴの奏でるメロディが。こんなのを今度の再結成でやってくれたら泣いてしまうだろう。昔だってライヴで演ったことないのだから、多分ないだろうけど…。それでまた最近やたらDJでもかけて家でもよく聴くPLASMATICの12インチ「Butcher baby」を聴きながら「ブチャベイビー」と口ずさむ。で、またEXTREME NOICE TERRORのピールセッションを。実は最初に出たブートのEPしか持っていず、さっき急いで正規版をamazonに注文。ついでにCHAOS UKのベストも頼んだりして、少し楽しみができてよかったよかった。で、次にNEGATIVE APPOACH のCDを聴く。こういうのを爆音で常時聴ける環境さえあれば沢山原稿を書くのに。辛くてたまらない日常も、なんとか耐えられるようになるのに…そんなのが手に入る人間ならば、こんな音楽なんて必要ないだろうけど。

 夜は河出編集者Oさんと打ち合わせ。

 帰ってきてビデオで、グレミヨンの『この空は君のもの』を観る。意志を貫くことの尊さについて考えさせてくれた。ありがとう。

 

 どんだけ音楽を聴いて映画を観るんだ!!彼の文化の受容ぶりには舌を巻く。時には、金がなくなり、借家を追い出されそうになっても、CDやDVDを買うのをやめない。彼の知的好奇心と、現実の金のせめぎ合いには冷や冷やさせられる。そして聴いたことのないアルバムや映画の名前の激流にクラクラしてくる。

 

 彼の罵詈雑言や呪いの言葉と相まって、これを読んでいるといつの間にか嫌な気持ちが消えている。

 それは決して、彼を下に見て「俺はまだましだ」と安心しよう、ということではない。こんな生き方もあるのかと、こんな人間もいるのかという驚きと、知識と悪口の渦に飲まれて訳が分からなくなる清々しさ。これがこの本の読後感だ。

 

6月28日

 起きたらもう2時過ぎで驚く。

 今日は新潮クラブから退出する日。タクシーで文春に移動。

 誰か知り合い、死なないかなー、と思いながらヨダレが口からダラリと落ちる。

 何もかもどうでもいい。どいつもこいつも首を吊って死んじまえ。