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時間を味方につける〜村上春樹の習慣術はあまりにも凄すぎる。

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 俺の心の師匠・村上春樹は、今や50ヶ国以上の国で翻訳される世界作家だ。世界中が村上春樹の小説を求め、絶賛している。しかし、彼は華々しいデビューを飾り派手に文学の階段を駆け上がったわけではない。確固たる習慣を守ることによって、着実に堅実に一歩ずつ歩んでいた作家だ。

 

 彼は時間を味方につけるのがとても上手い。そして、意志や才能やその場限りの努力ではなく、良い習慣によって文章を書き上げる。彼が身につけた習慣は本当に素晴らしい。今日は謹んで村上春樹の習慣を紹介させていただく。

 

 

毎日決まった時間に起き、走り、決まった分量を書く

 村上春樹はなんと夜の9時に眠り、朝は4〜5時に起きる。

 起きたら文章を書き始めるのだが、必ず原稿用紙10枚分書くそうだ。どんな筆がのっていても、10枚分でやめる。どんなに気が進まなくても10枚分まで書く。

 そして毎日ランニングをする。

 

村上:習慣はすごく大事です。とにかく即入る。小説を書いているときはまず音楽は聴きませんね。日によって違うけれども、だいたい五、六時間、九時か十時ころまで仕事します。
− 朝ごはんは食べずに。
村上:朝ごはんは、七時ころにチーズトーストみたいなのを焼いてちょっと食べたりするけど、時間はかけない。
− あとはひたすら書いているのですか。
村上:そうですね。だれとも口をきかないで、ひたすら書いています。十枚書くとやめて、だいたいそこで走る。
− 十枚というのは、四百字づめの原稿用紙に換算しての十枚。
村上:そう。僕のマックの書式だと、二画面半で十枚。書き終わると、九時か十時くらいになります。そしたら、もうやめてしまう。即やめる。
− そこから先は書かないんですか。
村上:書かない。もう少し書きたいと思っても書かないし、八枚でもうこれ以上書けないなと思っても何とか十枚書く。もっと書きたいと思っても書かない。もっと書きたいという気持ちを明日のためにとっておく。それは僕が長距離ランナーだからでしょうね。だってマラソン・レースなら、今日はもういっぱいだなと思っても四十キロでやめるわけにはいかないし、もっと走りたいからといってわざわざ四十五キロは走らない。それはもう決まりごとなんです。
− たとえば青豆と天吾の章が交互に出てくるBOOK2で、青豆とリーダーの対決のシーンが終わったところが、その日の六枚目だとしても、つぎの章を四枚書くわけですか。
村上:もちろん。
- どうしてペースを守ることが大事なんでしょう。
村上:どうしてだろう、よくわからない。とにかく自分をペースに乗せてしまうこと。自分を習慣の動物にしてしまうこと。一日十枚書くと決めたら、何があろうと十枚書く。それはもう『羊をめぐる冒険』のときからあまり変わらないですね。決めたらやる。弱音ははかない、愚痴は言わない、言い訳はしない。なんか体育会系だな(笑)。

今僕がそう言うと「偉いですね」と感心してくれる人がけっこういますけど、昔はそんなこと言ったら真剣にばかにされましたよね。そんなの芸術家じゃないって。芸術家というのは気が向いたら書いて、気が向かなきゃ書かない。そんなタイムレコーダーを押すような書き方ではろくなものはできない。原稿なんて締め切りがきてから書くものだとか、しょっちゅう言われてました。

でも僕はそうは思わなかった。世界中のみんながなんと言おうと、僕が感じていることのほうがきっと正しいと思っていた。だからどう思われようと、自分のペースを一切崩さなかった。早寝早起きして、毎日十キロ走って、一日十枚書き続けた。ばかみたいに。結局それが正しかったんだと、いまでもそう思いますよ、ほんとうに。まわりの言うことなんて聞くもんじゃないです。
(出典:『考える人』2010年8月号 新潮社)

 

 村上春樹は人生が長丁場であることを実感している。その場限りではなく、長く歩み続けるための仕組みを自分で立ち上げ、それを意識的に守っていく。今日しっかり習慣を守り歩めば、明日はもっと簡単に歩める。そして日を追うごとに歩みは確固たるものになっていく。まさに時間を味方につけているのだ。 

 

小説を書くシステムを守る

 村上春樹は、長編小説を書くときは他の仕事は全て片付けておき、その小説だけに手中する。

 そして確固たる書き直しのためのルールを守る。

 

 彼は何度も丹念に書き直す。まず第一稿を書き上げた後は、1週間ほど休んで第1回目の書き直し。結果的に矛盾してしまった箇所、筋の通らない箇所を書き直していく。

 そして1ヶ月ほど時間をおき、小説を寝かせて「養生させた」あとで、第2回目の書き直しをする。

 次に、第三者の意見を取り入れる。彼は、まず出来上がった原稿を奥さんに見せる。そして批判された箇所があれば、しのごの言わずに頭から書き直していく。

 その後、出版社に原稿を渡し、編集者の意見を聞き、ゲラを真っ黒にしながら何度も何度も書き直す。

 

 時間は、作品を創り出していく上で非常に大切な要素です。とくに長編小説においては、「仕込み」が何より大事になります。自分の中で来るべき小説の芽を育て、膨らませていく「沈黙の期間」です。「小説を書きたい」という気持ちを自分の中に作り上げていきます。そのような仕込みにかける時間、それを具体的なかたちに立ち上げていく期間、立ち上がったものを冷暗所でじっくり「養生する」期間、それを外に出して自然の光に晒し、固まってきたものを細かく検証し、とんかちしていく時間……そのようなプロセスのひとつひとつに十分な時間をかけることができたかどうか、それは作家だけが実感できるものごとです。そしてそのような作業ひとつひとつにかけれれた時間のクォリティー必ず作品の「納得性」となって現れてきます。目には見えないかもしれないけど、それには歴然とした違いが生まれます。

(出典:『職業としての小説家』村上春樹著 新潮社)

 

 このように村上春樹は、自分で作り上げた執筆のルールを守りながら、長い時間をかけて小説を完成させていく。

 

終わりに

  習慣の大切さはあらゆる偉人が言及してきた。そして様々な優れた習慣を見てきた。

 しかし、村上春樹の習慣は頭ひとつ抜きん出ている。本当に丁寧に丁寧に、自分の習慣を作り上げている。これほど己の習慣を大事にする人は初めて見た。これこそが、俺が村上春樹を心の師匠と崇める理由である。

 

 最後に。村上春樹とは比べるべくもないが、俺も今までの人生で習慣を作り上げてきた。こちらの記事で、身につけて良かった習慣ベスト5について記事にした。併せてご覧ください。

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