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初心者にもオススメ、魂の海外文学5冊。読みやすくて、どこまでも面白い。

 

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 海外文学はとっつきにくいイメージを抱かれることがある。以下の理由をよく聞く。

 

  1. 日本と文化が違うから。
  2. 翻訳者を通しているから。
  3. 数が多すぎるから。

 

 ①日本文化との違いは確かにあり、時々つまづくこともあるかも知れない。しかし、作家の紡ぐ物語に乗りながら異文化を追体験することは、文化を学ぶ上でとても有用だ。簡単に、そして深く学ぶことができるだろう。

 多様な文化を学んだあなたは視野が広がり、より鋭い視点を持つことができるだろう。

 

 ②海外文学は、日本の翻訳者が訳して1冊の本となる。翻訳者を通しているので、どうしてもそれは生ではない、原作ではない、ということを嫌う人がいる。昔は俺もそうだった。

 しかし翻訳者についての知識を得ることにより、考えを改めた。*1彼らは本当に真摯に、海外文学と向き合っている。訳された海外文学はもはや、原作者と翻訳者の共作だ。翻訳を通過することによって、物語は新しい力を得ると俺は思っている。

 

 ③確かに選ぶには多すぎる(もちろん多いこと自体は良いことなんだけれど)。だから今日は俺が完全なる独断と偏見で、魂に刺さる海外文学を5冊紹介したいと思う。どれも文庫本が発売されており、あまりに難解な語彙は使われていない。それでいてどこまでも面白い。どうぞ。

 

 

ムーン・パレス/ポール・オースター

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 それは人類が初めて月を歩いた夏だった。その頃僕はまだひどく若かったが、未来というものが自分にあるとは思えなかった。僕は危険な生き方をしてみたかった。とことん行けるところまで自分を追いつめていって、 行きついた先で何が起きるか見てみたかった。

  絶品の青春小説。

 

 ため息が出るほど上手い文章が踊る。抽象的な世界へ向かっていく文章の中に、「月面着陸」「ベトナム戦争」といった当時の具体的な出来事が散りばめられ、結果的に最高のバランスを保っている。

 そしてオースター流の、突飛な偶然が導くストーリーにグイグイ引き込まれていく。最後には深い余韻が胸の奥に残る。

 もう5回以上読んだ。何気なくパラパラ開いてみても、全てのページが面白い。本当にオススメの海外文学だ。

 

 僕は崖っぷちから飛び降り、もう少しで地面と衝突せんとしていた。そしてそのとき、素晴らしいことが起きたー僕を愛してくれる人たちがいることを、僕は知ったのだ。そんなふうに愛されることで、すべてはいっぺんに変わってくる。落下の恐ろしさが減るわけではない。でも、その恐ろしさの意味を新しい視点から見ることはできるようになる。僕は崖から飛び降りた。そして、最後の最後の瞬間に、何かの手がすっと伸びて、僕を空中でつかまえてくれた。その何かを、僕はいま、愛と定義する。それだけが唯一、人の落下を止めてくれるのだ。それだけが唯一、引力の法則を無力化する力を持っているのだ。

 

エマ/ジェイン・オースティン

 

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エマ・ウッドハウスは美人で、頭が良くて、お金持ちで、明るい性格と温かい家庭にも恵まれ、この世の幸せを一身に集めたような女性だった。もうすぐ二十一歳になるが、人生の悲しみや苦しみをほとんど知らずに生きてきた。

 

 ジェイン・オースティンは壮大な世界を描く作家ではなかった。登場する人物は、19世紀イギリスの田舎の名家や牧師や軍人、そしてその家族。それだけだ。

 しかし彼女は、自分で見聞きした小世界を、徹底的に綿密に描くことができた。文体は鋭い感性とユーモアに溢れており、ストーリーも「大した事件が起こらないのに、ページを繰らずにはいられない」と評される。そして、200年前に書かれた小説なのに、今でも十分すぎるほど共感できる心理描写と共に描かれる。

 

 ジェイン・オースティンは6つの長編を遺したが、どれも「女性の結婚」がテーマである。しかしそれぞれ別のタイプの主人公が描かれており、違った読み味を楽しめる。中でも俺はこの『エマ』が一番面白いと思った。

 

グレート・ギャツビースコット・フィッツジェラルド

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 僕がまだ年若く、心に傷を負いやすかったころ、父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は、ことあるごとに考えをめぐらせてきた。
 「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」

  言わずと知れた、アメリカ文学のマスターピースである。アメリカでは高校生の国語の教科書に載っているらしい。日本で言うと、『こころ』や『人間失格』といったところだろうか?

 戦間期アメリカ人のねじれた倫理観と、空疎な時代の空気と、虚しく終わっていく夢を、流れる様な言葉で描いた大大大傑作だ。

 訳者もである村上春樹は本書を、人生で最も影響を受けた本であるとしている。そして、「過不足のない要を得た人物描写、ところどころに現れる深い内省、ヴィジュアルで生々しい動感、良質なセンチメンタリズムと、どれをとっても古典と呼ぶにふさわしい優れた作品となっている」と評した。

 

 村上春樹の意欲こもった翻訳と合わさって、今まで読んだ文章の中で一番美しいと思った。読んでみてほしい。

 

月と六ペンス/サマセット・モーム

 

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 「過去のことなど考えんな。重要なのは永遠に続く現在———それだけだ」

 

 平凡な家庭の良き父だったストリックランドは、ある日突然家庭を捨て、ただ絵を書くためだけにパリに渡る。そして本能が赴くままに生き始める。彼の極端でエキセントリックな行動は非常識的だが、ハッとさせられることも多い。

 そしてストリックランドは後に天才画家として名を遺す。そして、彼の人生を後から作家である主人公が追いかけていく。当時の知り合いから話を聞き、徐々にストリックランドの壮大な人生の全貌に迫っていく様は、手に汗握る。

 

 タイトルの「六ペンス」とは、イギリスの硬貨のこと。夜空に浮かび美しく輝く「月」と、平凡でどこにでも落ちている「六ペンス」を対比させている。物語の中でも随所に、「平凡⇄非凡」の対比が通奏低音のように響いている。とても読み応えのある小説。

 

大聖堂/レイモンド・カーヴァー著 

 

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「よかったら、あたしが焼いた温かいロールパンを食べてください。ちゃんと食べて、頑張って生きていかなきゃならんのだから。こんなときには、ものを食べることです。それはささやかなことですが、助けになります」

 

 珠玉の短編集。 

 人々を覆う暗雲のごとき暗い運命と、瞬間的に雲間から射す陽光のごとき救い。それらの宿命的な対比が見事に描かれている。

 

 この短編集から俺がベスト3を挙げるとすれば、「ささやかだけど、役に立つこと」「羽根」「大聖堂」の3作品になる。

 特に「ささやかだけど、役に立つこと」は、この記事を書きながら読み返していたのだが、人目のあるカフェにもかかわらず泣いてしまった。この短編は、ここ50年で書かれた短編の中で一番出来がいいと思う。オススメ。

 

 

 以上です。

 皆さんの充実した読書ライフのために。

*1:知識を学んだ翻訳者というは、主に柴田元幸村上春樹吉川一義