「今を生きる」岡本太郎の人生哲学は素晴らしいが、真似できる気がしない。せめて今に集中する。
人生、無難な道ばかり選んできた気がする
危険だ、という道は、必ず自分の行きたい道なのだ。
いいかい、怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ。
私は人生の岐路に立った時、いつも困難な方の道を選んできた。
「危険な方向、怖い選択肢を選べ。そうすれば人生は輝く」という岡本太郎の人生哲学。すごく説得力があって魅力的だ。その瞬間瞬間、心の赴くままに挑戦し続ける、そうすれば強烈に毎日が輝いてくる・・・。異議なし、岡本太郎に一票。
でも俺にはできない、危険な道を選ぶなんて・・・。
思えば、始めて岡本太郎の思考に触れたのは、中学生の頃だった。
親の本棚にあった『自分の中に毒を持て』を手にとってみたのだった。
子供ながらに衝撃を受けたのを覚えている。こういう生き方があったんだ!自分はなんて守りに入った人生を送っていたんだろう!
当時、俺はどこにでもいる中学生だった。受験をしてそこそこの私立校に通い、その中でも成績は真ん中くらい。なんとなくテニス部に入り、ゆるく活動。趣味はゲームと読書とネットサーフィン。友達は多くもなければ少なくもない。控えめな性格だと人に思われており、自分でもそうだと思っていた。
そんな折に、この毒薬みたいな思想に触れたのだ。感銘を受けないわけがない。
しかし、感銘を受けただけで終わった。俺はそれからの人生でも、危険な道を一切選ばなかった。今でもそうだ。安全な道ばかり選んでいる。
うまく行きそうな道、快適そうな道、無難そうな道、平均的な道、誰にも迷惑をかけない道、自分が傷付かない道。
危険な道に飛び込むなんて怖くてできないから、そういう道ばかり選んできた。
では、俺の人生は輝いていないのか?
そうは思わない。今の自分の人生に満足している。
最高の嫁さんと結婚して生活を共にし、傑作小説に心を震わせ、文章を書くという健全な努力をし、借金はあるが働きながら前向きに生きている。
世間的には幸せとは見えないかも知れないが、俺は幸せに生きている。
なぜか?
岡本太郎の人生哲学に照らし合わせて考えるならば、俺は今に集中できているんだと思う。
今に集中することの大切さ
面白いねぇ、実に。
オレの人生は。
だって道がないんだ。
眼の前にはいつも、なんにもない。
ただ前に向かって身心をぶつけて挑む瞬間、瞬間があるだけ。
人はついつい過去のことを考え、囚われる。そして未来を予測し、うまくやろうとする。
しかし我々が生きているのは、今この瞬間だけだ。過去はもう過ぎ去ったし、未来はまだ来ていない。もちろん、ある程度過去や未来のことを考えるのは当然だし、必要だと思う。しかしそれで今をボーッと生きていたのではしょうがない。永遠に続いていく今を生きるのだ。
最近俺は、「今に集中している」時間が増えたような気がする。
嫁の言葉に耳を傾けているとき。
心を震わせる文章を読んでいるとき。
自分の考えで下手な文章を書いているとき。
岡本太郎が主張するような、人生に挑んでいく情熱的な態度とは違うかも知れない。でも「今に集中する」という形で近づいている気がする。
どのように今に集中してきたか?
どうして今に集中できるようになったのか?
自分が情熱を傾けること、大事に思っていることに集中できるのは当然だ。自分が人生を生きる中で大事なことが増えた、というのは一つの答えかも知れない。
しかしそれとは別に、俺は「マインドフルネス」を練習し、多少とも身に付けたのだ。
マインドフルネスとは今に集中して、「今この瞬間に気が付いている」状態を指す。過去のことや未来のことを考えてボーッとしていない状態である。
俺はこの本で練習した。
マインドフルネスの練習では、まず「瞑想せよ」と言われることが多い。もちろん効果的だが、初心者にはあまりに敷居が高い。俺だって、今でこそ瞑想を習慣にできたが、「げええ、瞑想?退屈だし、できる気がしねえ」と思っていた。実際にしなかった。
しかし、この本のアプローチは瞑想ではない。日常の些細な行動の中に、マインドフルネスを取り入れるというやり方だ。例えば、
- 背筋を伸ばす。
- 街を歩くとき、青色の物を探す。
- 食器を洗うとき、水が手に触れる感覚を意識する。
- 手が複雑に動いているのを意識する。
- 足が地面に触れている感触を意識しながら、歩く。
などなどである。日常生活の中で意識できることばかりだ。
背筋を伸ばすことを意識している瞬間、あなたは過去にも未来にも囚われいない。間違いなく「今、ここ」にいる。他の練習方法でも同様だ。
俺はこの練習をしてから(今でもたまにする)、今に集中できることが多くなった。コントロールできないことに気を囚われる瞬間が少なくなった。過去や未来ではなく、今この瞬間の中に存在できる瞬間が多くなった。
岡本太郎のように、情熱的に今この瞬間を燃やし尽くすことはできないが、今に留まり、充実した時間を過ごすことはできる。
これで十分すぎる。今のところは。